L-M BRIC NEWS イ ラストL-M 組紐技法入門シリーズ・手操作法の部  日 本語版 3-31-2004
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イラスト L-M 組紐技法入門シリーズ クテ打

手操作法基礎事項解説


クテ打手操作法基礎事項解説では、L-M BRIC ニュース中の手操作手順の基礎事項の解説をする。技法を更に詳しく知りたい人は、文 献を参照(
1)。

概要
クテ打はループ操作組紐技法の1種で、日本において7世紀或はそれ以前から中世期を通して、近代の黎明期まで用いられていたと考えられる。 技法が終焉を迎えたと思われる 1900 初頭には往時の技法の大多数は忘れ去られ、冠の紐などの「足打紐」を組んでいた老婆の死去と共に喪失した技法を惜しむものはいなかった。
クテ打は紐組成のための補助機具を全く必要としない純手組技法である。ある程度以上長い紐の組織を緊迫するには刀箆で組口を打つための助手か、足で起動さ せる打機を用いる。
あしうち図
現在知られる限りでは、ループ技法の大多数はループを指で支える「指操作技法」で、「手操作技法」が用いられているのはアラビア半島のオマン首長国と日本 のみである。クテ打は指、手両操作法を用いるという意味で独自である。
クテ打という名称は江戸後期の組紐記録の幾つかに残された名称から木下雅子が選んだ。ただし当時は中世期の技法最盛時の技法は疾うに忘れ去られていて、こ こに解説する基礎技法のみが残っていた。<br> 「クテ」とは江戸時代の記録に「手に掛ける緒」或は「組手」「ク手」などと記載されている。手操作法ではループを順に並べて手にかけて操作するので、操作 中に糸順が乱れないようにしなければならない。伝統的に絹糸を使う日本では、ループを手に掛けて操作できるように、紙縒り、あるいは針金などで作った「ク テ」を組み糸の端に繋ぎ足して持ち手にしたのである。 (写真1 安達組紐館蔵 作家名不明 能勢光撮影 1994)→








秘伝糸組図 毛糸などのケバのある糸を用いる場合は、ある程度手慣れすればクテを使う必要はない。たとえばオマンの遊牧民は駱駝の毛を紡いだ太い糸を用いるのでクテを 必要としない。
英国の現存の記録には組織を緊迫する具体的な方法については言及がない。日本には足で作動させる「足打台」の絵画資料があり、「秘伝糸組」には設計図もつ いているが、どの資料にも打ち機として作動するような図になっていない。秘伝を守るための方策であったのかもしれないが、足打台に関してはまだ納得のいく 復元はできていない。 現行技法では短い紐を組むには自分の足で組み口を押すか、両腕を拡げて引っ張るかする。長い紐を組む場合は一人が組み、もう一人が打つ場合が多い(2)。フリーダ・ソバーが報告しているモロッコで用いられている固定打機がある(3)。これは作るのも簡単であり実用になる。同様な固定打機がブルガリア、エジプトで19世紀の 用いられていたことを伝える絵画資料もある(4)。
(図1「組しゅん備考」より 木下雅子撮影 1987)


組紐に用いる素材
組紐には洋の東西を問わず絹糸が使われることが多いが、作成中のストレスに耐えられる素材であれば、材を問わない。種々の素材を試すことでそれぞれに異な る効果があることを知り、自分が求める結果が得られる素材を選ぶが良い。また素材の効果は絹、毛、木綿等の種類によるだけではなく、糸の撚りの向き、度合 い、何本撚りであるか、さらに1本の組糸に用いられている糸の本数の多少などにも関係する。組紐はまず第一に如何に組目が整っているかで評価されることが 多いが、評価の基準を変えて考えてみることも必要であろう。組目が隠れて色調のみが表にでる様な素材、例えばシュニール糸や裂き布などを使った効果を狙う こともできる。
練習用には、太めの毛糸、3番または6本取りパール刺繍糸を2本取りにしたものなどが適当であろう。滑らかで強い糸を適当な太さになるように数本取りにし て用いればよい。けば立ちやすい糸は不向きである。

糸の種類” width=

写真2 糸の種類例(左から) 絹 Z 撚りミコ糸 木綿パール刺繍糸S2-3番 同S2-5番 木綿パール刺繍糸S2-6本取 クルーウェル刺繍毛糸S2-3本取り ラグ織り用細手毛糸S3



クテ各種 ループの準備
ループ操作法では、ループ数の2倍の組糸(要素)数を使った組紐ができる。つまりループ数×2の糸束で所要の太さの組紐が作れるように、要素糸の太さをき める。

クテ
これから組もうとする組紐に必要とするループ数分のクテを用意する
毛糸に準ずる素材以外にはクテを用いる。毛糸は中細以上の太さであればクテなしで組める。毛糸のこの特徴を利用して太めの毛糸でクテを作ってもよい。

写真3 種々のクテ ラグ用麻糸 打紐 毛糸 メラミン


















組糸の太さ

素材の糸を手の回りに適当回数巻いてから抜き取り、その束を出来上がりの紐の堅さくらいになるまで捻じる。その時の糸束の太さが(巻き回数×2)本で組ん だ紐のおおよその太さになる。目的の太さになるように巻いて、その時の巻き回数を確認する。
1本のループに用いる糸本数=(巻き数×2)/(ループ数×2)=巻き数/ループ数

経切り
紐のでき上がり丈の約2倍の長さのループが巻き取れるような枠を用意する。枠は練習用の短いものならば物差し、下敷き等でよく、長いものには、2脚の椅子 を必要距離に離して置き動かないように固定する、など。
枠に巻き取った端の糸を10糎ほど残して切り、始の端の糸と結ぶ。結んだ糸の端を綛の束のまわりに数回しっかり巻き付け結ぶ。結んだところを端にして、で きるだけ端近くに糸束全部で一重結びにする。ここを組み頭とし綛の他端をループ端とする。
色柄のある紐の場合は必用とする柄色の本数に従って糸を巻く。色柄の順に巻く必用はない。

経切った組糸でループを作る
組み頭を支柱にしっかりと取り付ける。

クテを使わない場合
  1色ループ:ループ端を色順に従って並べて手にかける。
  2色ループ:ループ端を切り揃え、色柄に従って上糸と下糸の対を全てのループの長さが揃うように気をつけながらしっかりと結び繋いでループを作る。順 に並べて手にかける()。

クテを使う場合
  ループの端を切りそろえる。
  切った端を色柄の対の順に並び順が乱れないよう気をつけながらクテの足糸にしっかりと結びつけてループにつくリ、順に並べておく。

ループを初期配置に従い両手に掛ける。便宜上、左から右へのループ移動で始めるので、初期配置には左手のループ数が右手と同数か、より多数になるように配 置する。(6

構える ループを掛けた掌を手前に向けて胸の前に構える。(図2)
指の根元に近い側を外側、指先に近い側を内側とし、上と下2層に別れたループの上層の足を上糸、下層の足を下糸と呼ぶ。


クテ打の手順
ループ移動
・左右共に最外側に掛かるループ1本を移動して、他の手の最内側の位置に置く。
・ループは始めに左手から右手に、次いで右手から左手に移動するものとする。
・「外廻り」移動:最外側のループを同じ手のそれより内側に掛にかかっているループの外側を回わして移動する。
・「中通し」移動:最外側のループを同じ手のそれより内側に掛にかかっているループの内側を通して移動する。
・「開」移動:ループの上下糸が移動前後で変わらない。
・「閉」移動:ループの上下糸が移動の前後で入れ替わる。


基本操作 クテ打基本操作
「外回り」と「中通し」の2種と「開」と「閉」の2種を組みあわせた4種の操作を基本操作と呼び、A、B、C、D で表示する。(図3)

A =「外回り・開」(図3上)







B =「外回り・閉」(図3上から2段目)







C =「中通し・開」(図3上から3段目)










D =「中通し・閉」(図3下)











移動作業のヒント
実技に関する記録はないので、以下は作業しやすくするために木下が工夫したものである。人によって手勝手が違うのでこの方法が必ずしも良いとは限らない。 自分のやりやすい方法を各自で考えよう。
・ループを親指のつけ根から人差し指、又は中指の中程までの幅に拡げて配置し、順が乱れぬように親指を押し付けるようにして持つ。親指をこれ以外の目的に 使うことはないから、以下で「人さし指を除いて」とは中、薬、小指をさす。
・説明を簡明にするためループ移動は左手から右手に移動する場合を例にする。
・移動ループの隔離:最外側のループを同じ手にかかる他のループの外を回り、或は中を通って移動する時に糸順が乱れないようにするため。

ループの持ち方 1.「外廻り」移動のとき
左手のループを人さし指を除く3本の指の周りにかけてしっかりと張って持つ。人さし指を最外側のループ(移動ループ)に差し込む。最外側のループのみが4 本の指の周りにかかり、他のループは3本の指に掛かっている。移動ループが他のループから隔離される。(図4左)
右手を左手の上に持っていき、隔離されたループを取る。
2.「中通し」移動のとき
左手に掛けたループを人さし指を除く3本の指の周りにかけてしっかりと張って持つ。人さし指を最外側のループを除く残りのループ全ての中に差し込む。最外 側のループのみが中、薬、小指の3本の廻りに、他は4本の指のまわりに掛かり、移動ループが隔離される。(図4右)
右手を左手のループの中に差し込み、隔離されたループを取る。
3.「開」移動するには
隔離した左手最外側のループの上糸を右手の指先で下から掬うように取り、ほかのループの並び順が乱れないように気を付けながら左手から抜き取り、そのまま 右手に移動する。右手にもループが掛かっているからその並び順も乱さないよう気をつける必要がある。
4.「閉」移動するには
右手の指先を鉤の手に曲げて隔離した左手最外側のループの上糸を上から引っかけるようにして取る。ループを左手から抜き取り指先をそのまま伸ばせば、取っ たループの上下糸の位置が入れ替わって右手に移動する。

基本操作A 基本操作B 基本操作C 基本操作D

図5 ループの取り方 
左から A「外廻り・開」   B「外廻り・閉」    C「中通し・開」      D=「中通し・閉」


・クテ打基礎技法
江戸時代の記録から木下雅子が復元した9種の手順をクテ打の基礎技法とする。
基礎技法は以下のように基本操作で表示できる。

2-step braids 2段階手順 左→右、右→左2回の移動を繰り返す 手順。
記録には4種の手順がある。
1.(BB)角打=4畝綾織組織筒状組紐 使用要素数の記録はない(図6−1)





2.(CC)蛇腹打2本同時 使用要素数の記録はない(図6−2)





3.(DD)角打 使用要素数の記録はない(図6−3)






4.(DC)重打=4畝綾織組織平打組紐 ループ数13 と7の江戸期の記録がある
(図6−4)





2-step-braid swatches

写真4 2段階手順で組成される組紐
左から順に (BB)角打 (CC)蛇腹打2本同時 (DD)角打 (DC)4畝綾織組織平打
(BB)と(DD)は同じ角打だが、(BB)ではV字形組み口、(DD)ではA字形組み口になるので、 
杉綾の向きが逆になる。

上の表示では第1回の動きを左→右の移動、2回目に右→左の移動とする。
ループ数は奇数、初期配置は、左手のループ数が多くなるように(偶奇)又は(奇遇)に配分。
ただし正倉院宝物中にはループ数偶数の例があるように、ループ数が偶数では組めないわけではない。



4段階手順 
次の計4回の移動を繰り返す。
左から右に「外回り」
右から左に「外回り」
左から右に「中通し」
右から左に「中通し」
 
ループ初期配置
4段階手順ではループ移動の組合せに合わせて、始めに左右の手に配分されるループが奇数であるか偶数であるかによって組成される組紐種類がきまる。両者が 揃わなければ手順が成立しないという意味で、前半を「半手順」後半を「ループ初期配置」と呼ぶ。後半の例えば「奇奇」は、 ループ初期配置が左右共に奇数と言う意味である。
左→右の移動から始める慣習から、初期配置は左手のループ数が右手のものより多くなる。

江戸時代の記録にはループ初期配置については源氏打、偽源氏打は左右ともに8とすること及び威毛について6-3、6-5、8-5、8-5 が記載されている。しかし他の 2 手順には記載がないので、木下雅子が手順の組成機構を分析して、左右にそれぞれ奇数のループを配置することを解明した。



記録から復元した4段階手順には以下の5種類がある。

track-plans for 4-step braids

5.(AACC・奇奇) 四角2筋分かり出来る 四角打2本同時 (図6−5)







6.(AADD・奇奇) 四角二本打 御岳組(図6−6)








7.(AADC・偶奇) 糸(威毛) 8畝綾織組織平組紐(図6−7)







8.(BBCC・偶偶) 源氏打  台組みの丸源氏組とは異なる(図6−8)







9.(BBDD・偶偶) 偽源氏打 同上(図6−9)

4-step-braid swatches

写真5 江戸時代の記録から復元された4段階手順で組成される組紐
上から順に 四角打2本同時、四角二本打、8畝綾織組織平組紐、源氏打、偽源氏打
8畝綾織組織平組紐は屏風折りに畳んた形で組まれる。源氏打と偽源氏打はみただけでは違いはわからない。台組みの丸源氏にも似ているが、断面の形がいびつ である。

また、記録には例えば(AACC・奇奇)に対応する(AACC・偶偶)など、4種類の基本操作と4種類のループ初期配置との組み合わせでできる上記以外の 手順は記載されていない。しかし中世期や明治期の遺品から、江戸時代の記録にない手順もそれぞれの時代に理解されていたことがわかる。

Other 4-step braids

写真6 江戸時代の記録にない4段階手順で組成できる組紐例4種
(AACC・偶偶) 2畝綾織組織平組紐4本同時打 (写真6上左)
(AADD・偶偶) 蛇腹2本角打1本同時打 (写真6上右)
(AACC・奇奇) 4畝平組紐2本同時打 (写真6下左)
(AADC・奇奇) 4畝綾織組織平組紐2本同時打 (写真6下右)

追加基本操作
江戸時代の記録から復元した技法の範囲内では、基本操作はA、B、C、D の4種のみが使われているが、古代、中世の組紐には、それ以外の操作が使われている。それ等の操作を現存する組紐遺品から割り出したものとして、記録から 復元したものとは区別し、追加基本操作と呼ぶことにした。

追加基本操作
追加基本操作 F=「逆中通し・開」
:左手の最内側のループを「中通し」で右手最外側に「開」移動する操作。(図7上)
まず右手のループを仮に左手に持たせて、右手をそのループの中に差し込み移動ループを取る。左手に仮持ちさせたループを右手に取り戻す。





追加基本操作 G=「閉・外廻り」
:ル−プを始めに捻ってから「外廻り」移動する。(図7下)
まず左手の最外側以外のループを右手に仮持ちさせ、左手を返して残るループを捻って上糸と下糸の位置を入れ替える。右手に仮持ちさせたループを左手に取り 戻し、「外廻り・開」移動をする。