1. インドネシア・スラウェシ島のループ組紐
今回の解説は、前第8号で日下部啓子さんがインドネシア・スラウェシ島ママサの2005年春の調査紀行の報告中に採録技法として紹介されたものを含む。先
号の入門シリーズでは2重組紐を主題としたために、基礎技法に属するインドネシアの技法は割愛したので、今シリーズ:第9回にまとめて解説
する。
スラウェシ島ママサおよびサッダン・トラジャで現行されているループ操作技法は、指にループをかけ、掌を向かい合わせに構えて、薬指で操作する所謂
ループ指操作法第2法(組口V字型)に属する。
一般論として、ループ数が5本の場合、人挿し指、中指、薬指にループを掛けて薬指で操作する場合と、中指、薬指、小指を使い小指で操作する場合があるが、
これには地域的
なものと、個人的なものと考えられるものがある。日下部さんが調査されたインドネシア・スラウェシ島ママサ及びサッダン・トラジャでは、前者が使わ
れている模様である。
以下で、指、指にかけたループの指名法、ループを差し替える、などの用語は、イラスト L-M
組紐技法入門シリーズ:指操作法の規定に従う。
ママサ及びサッダン・トラジャの方法では:
「開操作」では移動ループを取る時にのその下糸を上から引っ掛けて取る(註1)
「閉操作」では移動ループをその上糸を上から引っ掛けてて取る
前者ではループを移動した後でも上糸は上糸である。後者ではループ移動の後で上下糸はが入れ替わる。
ママサおよびサッダントラジャでは、主として3種類の綾織組織組紐が組まれており、指操作技法第1法を用いる地域に見られる不正規組織組紐が組まれている
例を見ない。(註2)
A. 2畝綾織組織平組紐2本同時
B. 4畝綾織組織筒状組紐
C. 4畝綾織組織平組紐
3種共に綾の取り方は同じで、移動するループの取り方を変えることにより、3 種類の紐を組む。
採録技法にも古記録にも見える、ループ操作組紐技法の3基本組紐である。
ループの準備 ループ 5本、ループの色は自由に選択。 ここでは単にXとする。同色でなくても良い。
始まりのループの配置
5本のループを左右の手に下のように配置する。右手の薬指が空き指で、最初の操作指になる。
この配置では小指は使わないから、紛らわしいのでループ配置には記入しない。
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
X |
X |
|
|
X |
X |
X |
A. 2畝綾織組織平紐2本同時組
操作1 Rcをlcとlbの中に通し、laをその下糸を上から引っ掛けて抜き出す。laがRcに移動する。
左手のループを差し替える。
操作2 Lcをrcとrbの中を通し、raをその下糸を上から引っ掛けてとって抜き出す。raがLcに移動する。
右手のループを差し替える。
つまり2畝平紐2本同時組ではループを左右共に「開」移動する。
「開操作」では上下の層が繋がらずに組織が組成される。
2畝の平組紐2本が上下2層になって同時に組める。
B. 4畝綾織組織筒状組紐 (角組)
操作1 Rcをlcとlbの中の通し、laの上糸を上から引っ掛けて抜き出す。 laがRcに移動する。
左手のループを差し替える。
操作2 Lcをrcとrbの中を通し、raの上糸を上から引っ掛けて抜き出す。raがLcに移動する。
右手のループを差し替える。
つまり角組ではループを左右共に「閉」移動する。< small>(註3)
「閉操作」によって、上下の層がつなる。
2層になった2畝平組紐が、両耳で繋がり、4畝の筒状組紐になる。
C. 4畝綾織組織平組紐
操作1 Rcをlcとlbの中の通し、laの下糸を上から引っ掛けて抜き出す。 laがRcに移動する。
左手のループを差し替える。
操作2 Lcをrcとrbの中を通し、raの上糸を上から引っ掛けて抜き出す。raがLcに移動する。
右手のループを差し替える。
ここでは操作1では「開」、操作2では「閉」移動する。 左側の耳で繋がり、右側の耳が離れた、4畝綾織組織平組紐がC
字形に折れ曲がった状態で組成される。
「開」と「閉」は、左右逆にとっても良い。その場合は平組紐はコの字型に折れ曲がった状態で組まれる。
2. シリバッグの口紐と肩紐4畝綾織組織平組紐
シリバッグの口紐、ランテランテの組み方
ママサ、サッダン・トラジャでは、シリバッグの口の周りに上記のル−プ指操作技法Cで組んだ4畝綾織組織平組紐をくけ付け、それに角組の紐をじかに縫い通
して袋の口の開閉をする仕組みになっている。更に紐通し用にスリットを開けた口紐も工夫されていて、このような紐をママサではランテランテと
呼んでいる。
口周の2倍弱の長さのループを5本用意する。
作り方は上記の1と3を組み合わせて作る。Cを数回繰り返したら、A
を3−4回繰り返し、又3に戻る。Cの繰り返し回数で穴の無い部分の長さが決まり、Aの回数でスリットの大きさがきまる。
肩紐
ママサでもサッダン・トラジャでも、4畝平組か角組がシリバッグ肩紐に使われているが、サッダン・トラジャでは以下のような工夫もされている。
口廻りの長さ + 肩紐の長さ の約2倍弱のル−プを5本準備する。
上記Aの組み方で、2畝2本同時を袋の巾より少し長めに組む。(二股になった紐が1本づつ口の廻りを囲むように縁取りの穴に通される。)
次いで、B又はCで肩紐の部分を組む。始めの2本同時と同じくらいの長さが組めるようにループを残して、Aに転換する。端までAで組む。
3. 2人組穴あき8畝平組紐
サッダン・トラジャでの新発見
日下部啓子
偶然類似した二つの、白地と赤地の小さなセプを入手した。

(写真1)白地と赤地のセプ。上に乗っているのはLさんと共作作の口紐のサンプル
トラジャの東部の村からのものである。これまでに見たセプと同様の組紐の使い方がされているが、よく観察すると、口の部分の組紐がこれまで見た紐(4畝)
とは異なり、8畝綾組織平組である。さらに肩紐を通すためのスリットが規則的に開けられ、
そこは左右4畝ずつになっている。全体的に見ると生成り地に赤の菱文様が浮き出していて、赤が中央で交わった時に赤4目が分離してスリットが出来るように
組まれている。赤は木綿を化学染料で染めたもの、緑味を帯びた生成りはパイナップル繊維である。山に自生するパイナップル繊維はこの地方の染織材料として
古くから知られている。肩紐も同様のパイナップル繊維が使われ、中央が角組で両端が二本同時に組まれている。また本体部は白地の方を例にとると、生成り木
綿地に黒の大きな縞文様が入っている。生地は緯糸の太さの変化によって畝のある平織で織られている。このように凹凸のあるテクスチャーで織られた布をトラ
ジャではバンバンbambanと呼び、古い伝統的な織りものである。
さてこのセプの口の組紐はどのような方法で組まれたのであろうか。幸い袋の内側にループ端が保存されている。赤が4ループ、生成りが5ループ 明
確に数えられる。このセプを入手した時、私はすでにレンボンの村でネネ・Eから9ループの組紐のあることを聞き、二人で2連角組を製作して
いた。(註4)従って9ループ2人組みにおいて、どのよう
にループが受け渡されるか実践していたので、この8畝の平組紐の組み方もそこから類推することが
できた。組み手法としてはママサと同様にここでも使われている指操作第2法を使った。
ここにはママサで行われ、又イギリスの記録にも見られる組み手2人が共に5ループを持って2人で組む方法を使った場合に連結畝の一方が3越になると
いう不整を避ける手段がとられていることが認められる。
以下に解説する組み方は、すでに習得していた10ループで角組2本を連結する2人組を参照にして、私が考案したものである。
<赤い菱文様の口紐/8畝平紐の組み方>解説
スリットのない「基本部」と、スリットのある「紐通し部」からなる。
基本部では、2人組8畝綾織組織平組紐手順で組む。
ここでは右側の組み手が4畝平組紐を、左側組み手が2畝平組紐2本同時を組み、相互にループを受け渡して連結する。(入門シリーズ
ループ指操作法基本編 II 2本の組紐を耳で連結する方法)
紐通し部では2人組4畝綾織組織平組紐2本同時手順で組む。
ここでは、組み手が2人とも2畝平組紐2本同時を組み、相互にループを受け渡して連結する。
ループの準備 9ループ,赤4本、白5本の1色ループを用意 出来上がりの2倍弱の長さ。
始まりのループの配置
「右組み手」は5ループ、「左組み手」は4ループ持つ。
La |
Lb |
Lc |
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Rc |
Rb |
Ra |
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La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
赤 |
赤 |
|
|
赤 |
赤 |
|
|
白 |
白 |
白 |
|
|
白 |
白 |
基本部 8畝平組紐手順
右組み手の人差し指に白ループがある時に行う。(操作1−6)

段階1 右組み手が4畝平組紐の手順で組む
操作1 Rcでlaを開操作で取る。
左手のループを差し替える。
操作2 Lcでraを閉操作で取る。
右手のループを差し替える。
操作 3 左組み手のRaで、右組み手のlaを、指の先端方向から指を差しこみ引っ掛けて取る。(右組み手
の
laの上糸を上から引っ掛けて取る)
これで右組み手のl3が「左組み手」のRaに移る。
(右図 上 操作3 下 連結ループ移動後)
組み始め1回目の操作3が終わった時のループ配置
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
|
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
赤 |
赤 |
|
|
赤 |
赤 |
白 |
|
|
白 |
白 |
|
|
白 |
白 |
段階2 左組み手が2畝平組2本同時手順で組む。
操作4 Lcでraを開操作で取る。 右手のループを差し替える。
操作5 Rcでlaを開操作。 左手のループを差し替える。
操作6 右組み手のlaで、左組み手のraを、指の先端方向に指を差しこみ引っ掛けて取る。(左組み手
のraの上糸を上から引っ掛けて取る)
左組み手のraが右組み手のlaに移る。
初回操作6が終わった時のループおよび色配置
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
|
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
赤 |
白 |
|
|
赤 |
赤 |
|
|
赤 |
白 |
白 |
|
|
白 |
白 |
操作1-6を、Raに赤糸が来るまで繰り返す。
赤色ループ第1本目が右端にきた時のループ配置
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
|
La |
Lb |
Lc |
|
Rc |
Rb |
Ra |
白 |
白 |
|
|
白 |
赤 |
|
|
赤 |
白 |
白 |
|
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赤 |
赤 |
紐通し部 4畝平組紐2本同時手順
「右組み手」の右人差し指に赤ループが掛っている間、組み手は共に2畝平組2本同時手順を行う。その結果、上下の層になっ
た4畝綾織組織平組紐が2本同時に作られる。8畝平紐の中央にスリットができるわけである。
段階3 右組み手が2畝平組2本同時の手順を行う。
操作7 Rcでlaを開操作で取る。 左手のループを差し替える。
操作8 Lcでraを開操作で取る。 右手のループを差し替える。
操作9 平組み手順の操作3と同じようにして、laを左組み手のraに移す。
段階4 左組み手が2畝平組2本同時の手順を行う。
操作10-13 操作4-6と同じ。
紐通し部手順を4回繰り返したら、右組み手のRaに白色ループが来る。基本部手順に切り替え、次に赤色ループがRaに来るまで(5回)繰り返す。
以上操作1-13を繰り返す。
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